生命保険数学

利率

利率

リスクを論じるとき、実務的な関心はお金にある場合が大半である。「リスクの数学」を論じるときにも、典型的な適用例はお金に関するリスクであり、完全に切り離して考えることは理論上可能でも、適切な態度ではないだろう。

したがって、まず最初にどこから話を始めるべきかと言えば、利率という概念から始めるべきだろう。ほとんどあらゆるお金の議論には、利率が背景にあるからだ。

例えば、銀行にお金を預けた場合、銀行が定めた利率に従って利息が付く。逆に銀行などからお金を借りた場合(ローン等)、返済額は利率に従って計算される。投資のリターンは一般的に年率の利率によって表される。保険商品の価格の計算基礎にも予定利率が用いられている。会計における原価の計算にも利率は用いられる。

単利と複利

利率には、主に単利と複利がある。単利の方が単純だが、実務で用いられているのはもっぱら複利の方である。

利率は時間に伴って付くものであるから、以下では簡単のため、次のようなモデルの下で考えよう。

時間を t で表し、t=0 を開始時点として、t=0 における金額は 1 とする。利率は時間 1 あたりにつき i とする。また、時刻 t における金額を A_{t} で表す。

A_{0} は開始時点の金額なので、元金もしくは元本という。このモデルの下では、時刻 s から時刻 t までの利息は A_{t} - A_{s} で表されることに注意しよう。

また、一般に A_{0} =1 ではない場合ももちろん考えられるが、A_{0} = a のときは、単純にすべての時点の金額は a 倍になるだけなので、本質的な違いはない。

単利

単利とは、元金に対して時間あたり常に一定の利息が付く利率のことである。今考えているモデルの下では、A_{1}= 1+i であり、A_{2} =1+2i といった具合になる。この関係を一般化すると、次の式が成り立つ。

A_{t} = 1+ it

時刻 s から時刻 t までの利息は、

A_{t} - A_{s} = i(t-s)

このように、時間 1 あたりの利息が変わらないのが単利の特徴である。

複利

複利とは、その時点の金額に対して時間あたり常に一定の利率(割合)で利息が付く利率のことである。

今考えているモデルの下では、 A_{1}= 1+i であることは単利の場合と同じである。すなわち、時刻 1 では元金 1 に対して、利率 i で利息 1 \cdot i = i が付く。

時刻 2 ではどうなるだろうか。複利の定義にたちもどって考えると、時刻 1 の金額 A_{1}= 1+i に対して 、利率 i で利息 (1+i)i が付く。だから、

A_{2} = A_{1} + (1+i)i = (1+i)^{2}

また、このように考えてもよい。複利においては、時間あたり常に一定の利率(割合)で利息が付くのだから、一定の割合で金額が増えるべきである。A_{1} = 1+i ということは、時間 1 あたり金額が 1+i 倍になっているということだから、 A_{2}A_{1}1+i 倍になっているべきである。すなわち、

A_{2} = A_{1} \cdot (1+i) = (1+i)^{2}

結果を見れば、時刻 1 では元金の (1+i)^{1} 倍、時刻 2 では元金の (1+i)^{2} 倍になっていることがわかる。この関係を一般化すると、次の式が成り立つ。

A_{t} = (1+ i)^{t}

時刻 s から時刻 t までの利息は、

A_{t} - A_{s} =  (1+ i)^{t} -  (1+ i)^{s}

利息に対して、少しばかり解釈を加えよう。さらに式変形すると、

A_{t} - A_{s} =  (1+ i)^{t-s}( (1+i)^{s} -1 ) = (1+i)^{t-s}( A_{s} - A_{0} )

右辺の A_{s} - A_{0} は、時刻 0 から時刻 s までの合計の利息である。これが時間 t-s に対して、時間 1 あたり 1+i 倍の割合で増えているということになる。

このように複利は、利息が時間に伴って一定の割合で増加していくのが特徴である。

なぜ複利の方がよく用いられるのか

ここまで単利と複利について述べてきたが、なぜ実務では単利はあまり用いられず、もっぱら複利が用いられるのだろうか。お金を借りる側の心理としては、単利の方が利子が安くて済むのだから、できれば単利として欲しいところだろう。

だがこれはサービスの公平性を考えれば、至極当然の話なのである。

例えば、ある定期預金が預かった金額に対して年率1%の利息を付けるものとしよう。この定期預金がもし複利でなく、単利だったらどうなるだろうか。

Aさんが元金100万円を預け入れるとする。1年目、Aさんの口座に付く利息は1万円であり、1年後には101万円になっている。単利では元金100万だから、2年目に付く利息も同じ1万円である。

一方で、Aさんが定期預金に入金してから1年後の時点で、Bさんが新規に101万円を預け入れたとしよう。Bさんの口座に1年目(Aさんにとっては2年目)に付く利息は、Aさんよりも多い10,100円である。

つまり、同じ時点で見れば同じ金額を預け入れているにも関わらず、単利では前から預けていた人の方が後から預けた人に比べて利息が目減りしてしまう。不公平が生じてしまうのである。

そこで、もし口座の解約手数料がかからないのならば、AさんがBさんより損をしないために取るべき行動は、直ちに口座からすべてのお金を引き出して、そのままもう一度預け直すことである。たったそれだけで、目減りした分の利益を得ることができてしまう。こんなことがまかり通ってしまうのは、明らかにサービスの欠陥だろう。

複利では、このような問題は絶対に起こらない。同じ金額に対してはいつでも同じ利率(割合)で利息が付くからである。

やはり普通は、預金にしても投資にしても、同じ元金であれば同じ期間に同じリターンが期待されるべきものだろう。この見地に立てば、利率として自然なものは、単利ではなく複利なのである。

そこで、次回以降の記事では、特にことわりのない限りは、利率は常に複利を表すものとする。

関連記事

  1. 生命保険数学

    名称利率と実利率

    名称利率と実利率銀行預金では半年に1回利息を計算して…

  2. 生命保険数学

    現価率と割引率

    現価率現価 \( P \) を時間 1 あたりの利率…

  3. 生命保険数学

    現価と終価

    お金の時間的価値次のような問いを考えてみよう。…

アーカイブ

カテゴリー

カテゴリー

  1. 生命保険数学

    現価と終価
  2. 生命保険数学

    利率
  3. 生命保険数学

    名称利率と実利率
  4. 生命保険数学

    現価率と割引率
PAGE TOP